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東京地方裁判所 平成5年(ワ)19804号 判決 1996年3月25日

原告

玉城正男

右訴訟代理人弁護士

佐々木幸孝

被告

株式会社ジョイフル

右代表者代表取締役

古俣範雄

右訴訟代理人弁護士

飛田秀成

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、金二八二万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年九月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに平成五年一〇月から被告が原告を復職させるまで毎月二五日限り金三一万円を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告会社に雇用されていた原告が被告会社のなした解雇が違法無効であり、右解雇及び就労の拒否が不法行為に該当するとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、平成五年四月ないし同年九月分の賃金一八六万円、同年夏期一時金四六万五〇〇〇円、以上合計二三二万五〇〇〇円及び慰藉料五〇万円並びにこれらに対する弁済期経過後の遅延損害金さらに平成五年一〇月以降復職まで毎月支払日限り三一万円の賃金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  被告会社はスーパーマーケット(以下「スーパー」という)などの店頭又は催事場において家庭用品・日用雑貨等のアイデア商品の短期催事販売を行うことを主な業務とする会社であり、原告は平成二年一〇月一日被告会社との間で雇用契約を締結し、同日から被告会社の正社員として期限の定めなく雇用された。

2  原告は、被告会社に入社後、関東及び信越地区各地のスーパーなどへ派遣され、催事販売に従事していた。通常の場合、原告一人あるいはアルバイトの者一、二名との勤務であった。被告会社の販売方法は、スーパー等の店頭あるいは催事場に二十台から三十数台の陳列台(什器)を並べて、その上に前記日用雑貨等を陳列して販売するものであった。

3  被告会社は、原告に対し、平成五年三月五日に、原告を解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という)をし、同年四月八日に、同年二月二一日から三月二六日までの未払賃金(同年三月五日以降の有給休暇の買取り分を含む)と解雇予告手当三一万円の合計五九万一五〇八円を支払った。

被告会社は、本件解雇が適法有効であるとして、原告との雇用関係の終了を主張し、原告の就労を拒否している。

4  原告の賃金は、店頭手当を除けば、毎月変動のない固定額三一万円であった。また、被告会社では夏期一時金の支給基準は慣行により一・五か月分であり、したがって、平成五年夏期一時金(平成五年七月一五日ころ支給)を原告に支給すべきであるとすると、その額は四六万五〇〇〇円となる。

5  被告会社の就業規則には、「従業員の就業状態が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」に解雇することがある旨の規定(四九条二号)がある。

二  争点

1  本件解雇の効力

(一) 就業規則所定の解雇事由の存否

(被告会社の主張)

(1) 原告は、平成四年八月二〇日、長崎屋荒川沖店(茨城県土浦市(以下、住所略))での催事場販売に従事した際、被告会社が事前に指示していたにもかかわらず、客に配布するハンドちらし五〇〇〇枚を準備せずに販売に臨んだ。そのため、当日、ちらしの配布要員として雇用されたアルバイトの者の仕事がなくなった。そこで、原告は、これを糊塗するために独断でアルバイトの者に代金を支払って翌日以降の出勤を断り、ちらしを配布しないまま放置していた。右事実が判明し、原告の怠慢で売上げの減少が予測されたことから、被告会社は、原告に対し、直ちに対応策を講じることを命じて厳重に注意した。実際にその催事期間の売上げは、通常の売上げに比して約四〇万円の減少となった。

(2) 原告は、平成五年一月二六日、信州ジャスコほていや上田店(長野県上田市(以下、住所略))での催事場販売に従事した。同店と被告会社との契約では、右催事の最終日の販売は午後五時ころまでとし、被告会社による搬出は店と相談の上午後五時ころから開始する旨定められており、このことは事前に原告に書面で指示されていた。ところが、原告は、最終日の午前一一時ころから売れ筋商品を並べるため同店から提供されている平台を勝手に片付け始め、同店の担当課長がこれを発見した。その結果、同店から被告会社に対して、約束を守らずこのようなことをするのであれば取引を停止させてもらうとの強い抗議があった。そこで、被告会社は、原告に対し、売場の再開を指示するとともに、この業務命令違反を厳重に注意した。その後、被告会社は、同店の店長及び担当課長に詫びを入れたが、それ以降、同店からの催事販売の依頼はなかった。

(3) 原告は、平成五年二月二六日から同年三月三日まで、西友志村坂上店(東京都板橋区(以下、住所略))で店頭販売に従事していた。原告は、交付された販売マニュアルや催事販売マニュアルに従って、入店許可の販売員証を左胸につけること、宣伝用のカセットテープを流し、常に声を出して売場を活気づけることが義務づけられているにもかかわらず、右販売員証をつけず、テープも流さず、営業時間中に段ボールに腰を下ろしてストーブに当たりながらラジオを聴くなど販売活動を著しく怠っていた。このことが西友本部の従業員に発見されて西友から被告会社に通報され、被告会社は西友から厳重な注意を受けた。

(4) 被告会社は、原告がその都度厳重な注意を受け、また、勤務態度を改めるよう指導されたのに改善の気配がなく、このままでは得意先から取引停止とされる事態にもなりかねず、原告を販売員として売場に派遣することは困難であると判断し、他方、被告会社の男性従業員はすべて販売員であり、その適格性を欠く以上退職しかあり得ないことから、就業規則四九条二号に該当するものとして本件解雇に至ったものである。

(原告の主張)

(1) 原告は、長崎屋荒川沖店への派遣を指示された際、事前にアルバイトの者の手配がされるかどうかについて被告会社に確認したところ、その手配はされていない旨の回答があった。ハンドちらしは二階以上の催事場で販売する際、店頭で客に配布するものであるので、アルバイトの者が来なければ配布することができない。そのため、原告は、五〇〇〇枚ものハンドちらしを発注するのは無駄であるので注文しなかった。ところが、平成四年八月二〇日、アルバイトの者が来たので、原告が被告会社に電話を入れたところ、被告会社からは「今日のところは使ってくれ」という返事であり、翌日以降については閉店までに連絡するとのことであった。しかし、結局連絡がなかったので、原告は、アルバイトの者に事情を話し、翌日の出勤を断った。翌日、原告と被告会社との電話によるやりとりで、ハンドちらしの手配を直ちにすること、同月二四、二五日のアルバイトの者の手配を被告会社本部で行うこと、ハンドちらしが届くまでの間は応急的に原告がハンドちらしを配布することが決まった。そして、原告は、二日間来たアルバイトの者ととともに、予定の五〇〇〇枚のほとんどを配布した。そのため、原告はこの件で被告会社から注意を受けたことはないし、このことにより売上げが減少したわけでもない。

(2) 信州ジャスコほていや上田店での催事販売の陳列台は被告会社持込みのもの二〇台、同店提供の平台五台で構成されていた。原告は、このうち提供を受けた陳列台のうち四台につき最終日で商品の残りが少なくなって見栄えが悪くなっていたので、商品を他の台に移して片付け始めたにすぎない。しかし、原告は、同店の担当者から注意を受けたので、直ちに被告会社に連絡をとり、同店とのトラブルについて伝えた上相談し、すぐに四台を元に戻した。

(3) 原告には販売マニュアルは交付されていない。西友志村坂上店での販売は厳寒期の店頭販売であったので、販売員証をつけた上にジャンパーを着用していただけであり、カセットテープを流さなかったのはテープが壊れていたからである。また、厳寒期の九時間に及ぶ長時間労働であることを考えれば、小さな小型電気ストーブで暖をとるため人目につかないレジの裏側で腰掛ける場所を作って腰を下ろしたことがあっても責められるべきではない。同店は、非常に客が少なかったのであるから、ほとんど客の目にもつかなかったはずである。

(4) 原告は、被告会社から厳重な注意を受けたことも勤務態度を改めるように注意を受けたこともない。

そして、仮に被告会社主張の事実があったとしても、これらは、いずれも軽微な職場規律の違反にすぎず、就業規則四九条二号に該当するものではない。

(二) 本件解雇が解雇権の濫用に該当するか。

(原告の主張)

仮に被告会社主張の事実があったとしても、その程度の非違行為であれば、これに対してまずは解雇に至らない懲戒処分をとって労働者に改める機会を与えるべきであり、解雇処分をいきなりとることは解雇権の濫用である。

(被告会社の主張)

スーパーの売上げの減少は出入業者の変更で簡単に解決できる事柄であるのに対し、販売員の接客態度やサービスの不良で顧客の信頼を失った場合には各スーパーが被る損害は計り知れない。したがって、原告の勤務態度の不良は、軽微な職場規律違反ではなく、小規模の被告会社にとっては取引を停止されるという経営の根幹を揺るがしかねない大問題であって、これまで原告が懲戒処分を受けたことがないとしても、被告会社に解雇権の濫用はないというべきである。

2  不法行為の成否

(原告の主張)

本件解雇は前記のとおり違法無効であるにもかかわらず、被告会社は原告の就労を拒否したのであって、原告は、本件解雇及び就労拒否により大きな精神的苦痛を受けた。右精神的苦痛に対する慰藉料としては五〇万円が相当である。

よって、被告会社は、原告に対し、不法行為による慰藉料として五〇万円の支払義務がある。

(被告会社の主張)

本件解雇は適法有効であり、不法行為は成立しない。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件解雇の効力)について

1  証拠(略)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 被告会社の販売員の職務は、各地のスーパー・百貨店の催事場又は店頭で、二〇台ないし三〇台の陳列台に家庭用品・日用雑貨等のアイデア商品を陳列して販売することである。被告会社は、各スーパーの本部催事部から送付される「アイデア催事」開催店舗の予定表に基づき、被告会社独自の予定表を作成し、その中で店ごとの担当販売員を決め、休日等も指示して各販売員に送付し、また、担当する店舗の導入書(半月から一か月程度前に店舗と被告会社との打合せ内容及び約束を記載した書面)を送付する。各販売員は、右予定表により担当する店舗、日時、休日を知ることができ、右導入書により店舗との約束内容を知ることができる。各販売員は、催事当日、予定表に記載された店舗に直接出勤して催事販売業務に従事するので、被告会社の本社に出勤することはほとんどない。

このように、被告会社が直接各販売員に注意、指導することが困難であるため、被告会社は、販売員の採用時に販売マニュアルを交付し、催事販売の基本的なことを説明しており、ほかに各種伝票の書き方、催事報告書、経費の精算の方法のマニュアルやその書式集も交付している。原告もその例にならい、販売マニュアルを含めそれらの書類の交付を受けた。

(二) 原告は、平成四年八月二〇日から同月二五日までの間、長崎屋荒川沖店の三階催事場での催事販売に従事した。スーパーの催事場は店舗によっては二階以上の階にあることがあり、その場合、アイデア商品フェアの会場を客に宣伝することが必要不可欠であり、右販売マニュアルにおいても、販売員がハンドちらしで集客を図るものとされている。そのため、被告会社では必ずA五版のハンドちらしを用意し、エスカレーターの昇り口その他の場所でアルバイトの者などが客に手渡しで配布している。二階以上の会場の場合、ハンドちらしを配布するかしないかで売上げに大きな差が生じる。被告会社は、店舗との間の打ち合せにおいて、ハンドちらしの配布枚数、配布場所を決め、導入書によりこれを契約している。長崎屋荒川沖店の催事場は三階にあるため、被告会社がハンドちらし五〇〇〇枚を用意し、これを配布することが同店との契約で定められた。そして、被告会社は、原告に対し、その旨を記載した導入書を交付してハンドちらしの準備を指示した。ところが、原告は、同店での催事販売に当たって、ハンドちらしを用意していなかったため、平成四年八月二〇日、同店に来たアルバイトの者を断ってよいかと被告会社に電話で問い合わせた。しかし、原告が断る理由を告げなかったので、被告会社代表者が直接原告に電話をしたところ、原告は、ハンドちらしを用意していないことを明らかにした。そこで、被告会社代表者は、原告に対し、すぐにハンドちらしを発注するよう指示するとともに、今後このような不祥事を二度と繰り返さないように厳重に注意した。しかし、当日の発注は時間的に間に合わず、翌日の発注となってしまった。また、原告は、右アルバイトの者に対して二日目以降の出勤を断ってしまったため、販売期間の最後の二日間しかアルバイトの者を手配できず、予定の五〇〇〇枚を配布することはできなかった。その結果、売上げは通常の場合よりも三〇万ないし四〇万円程度減少した。

(三) 被告会社では、平成四年一二月二五日午後一時から午後四時までの間、従業員全員の研修会を開催し、催事販売に関して被告会社販売員が注意すべき事項を記載した第七期経営計画書を原告を含む販売員全員に交付し、被告会社代表者と常務取締役春川和信が右書面に従って注意事項を述べた。被告会社代表者は、右研修会の冒頭で、販売員らに対し、取引先の催事部長から最近販売員の不祥事で即刻取引停止とされた業者があるので注意するようにと伝えた。

(四) 原告は、平成五年一月二一日から同月二六日までの間、信州ジャスコほていや上田店一階名店街横の催事場で催事販売に従事した。被告会社は、同店との間で、陳列台については被告会社が専用什器二〇台を持参し、同店が平台五台を準備して合計二五台で売場を設営すること、最終日における什器・商品の搬出については同店と相談の上で午後五時ころから開始することを合意した。ところが、原告は、最終日の同月二六日午前一一時ころ、売れ筋の商品を陳列している右平台のうち四台を勝手に片付けてしまったため、これに気付いた同店の担当課長塚本昭成は、直ちに被告会社に電話をかけ、もしそれが被告会社の指示によるものであれば即刻取引を停止すると厳重に抗議した。そこで、被告会社は、原告に対し、売場を作り直すよう指示するとともに、今後二度とそのようなことをしないよう厳重に注意をして、売場を原状に復させたが、以後、同店から催事依頼はない。

(五) 原告は、平成五年二月二六日から同年三月三日までの間、西友志村坂上店の一階正面入り口前で催事販売に従事した。ところで、被告会社の前記販売マニュアルでは、入店の心得として、従業員通用口から入店し、受付において入店手続を行い、入店許可のバッジ(販売員証)を借り受けて必ずこれを左胸につけること、喫煙は定められた場所以外では絶対にしてはならないこととされており、販売員のエチケットとして、腕組みをしたりポケットに手を入れたり、後ろ手に組んだり不体裁な姿勢をとらないこと、カセットレコーダーの設置について、場内全体に聞こえるように設置することなどが明記されている。また、前記経営計画書では、入退店について、入店証(販売員証)を左胸につけて入店すること、接客マナーとして、腕組みをしたり、手をポケットに入れたり、後ろ手に組まないこと、販売態勢について、絶対に無断で売場を離れないこと、無気力な態度で店の信頼を失うようなことのないように注意することなどが明記されている。ところが、原告は、右催事販売の期間、レジの所に段ボール箱を置いてそこに腰をかけて腕組みをしたり、勤務時間中、レジの所に置いた電気ストーブに当たりながら喫煙したり、缶コーヒーを飲んだり、新聞を読んだりし、また、同店と被告会社との契約では宣伝用のエンドレステープを流すことが決められていたにもかかわらず、原告は、これをせず、テープを流すためのカセットレコーダーでラジオを聴いていた。さらに、原告は、入店後、アルバイトの者にレジを任せたまま一時間ほど売場を離れていた。西友住居余暇事業部に所属する山崎信幸は、同年三月三日午後二時三〇分ころ、取引先管理業務の一環として西友志村坂上店を巡回して原告の勤務状況をチェックしたところ、原告が、着用しているジャンパーに入店許可の販売員証をつけず、段ボールに腰をかけて腕組みをしてラジオを聴いているのを現認した。そのため、山崎信幸は、同日、被告会社に対し、そのことを電話で連絡するとともに、原告に注意するよう要請し、翌四日には西友の取引先会議に出席した被告会社代表者に対し、「こんなことをやっていると、とんでもないことになりますよ」と言って、厳重に注意をした。

(六) このように、原告が被告会社で催事販売に関する研修を受け、被告会社代表者から二度にわたり注意を受けたにもかかわらず、西友志村坂上店で右のような勤務態度をとり、そのため同社から注意を受けたことから、被告会社代表者は、原告が販売員として適格性を欠いており、今後原告を販売員として取引先の売場に派遣すれば、スーパーなどの取引先から取引を停止される危険性があると判断し、また、販売員以外に原告にさせる仕事もないため、原告を解雇するのもやむを得ないとの結論に達した。

2  右事実によると、原告は、取引先との契約に反してハンドちらしの準備を怠り、その結果、売上げを減少させ、また、取引先との契約に反して陳列台を販売時間終了前に片付け、さらに、勤務時間中にストーブに当たり、腰を下してラジオを聴くなどし、そのため、取引先から被告会社に対して厳重な注意がなされたのであって、原告の就業状況は、著しく不良で就業に適しないといわざるを得ず、したがって、就業規則四九条二号に該当するといわなければならない。

3  長崎屋荒川沖店の件について、原告は、被告会社に事前に確認したところ、アルバイトの者が手配されていない旨の回答があり、そのためハンドちらしを準備しても無駄であるので、これを準備しなかったと主張している。

しかし、前記認定事実によると、同店と被告会社と契約では、ハンドちらし五〇〇〇枚を被告会社が準備するものとされており、被告会社は、原告に対し、その旨を導入書により指示したのであるから、販売員である原告としては、事前に確認した時点でアルバイトの者が手配されていなかったのであれば、アルバイトの者の手配を被告会社に要請し、自らはハンドちらしを用意して同店に出向くべきであって、アルバイトの者が来ないと聞いたからといって、自己の裁量でハンドちらしの配布を止める権限を有するわけではない。

また、原告は、最後の二日間で五〇〇〇枚のほとんどを配布したと主張しているが、そのことを認めるに足りる証拠はないし、証拠(略)によると、前記(二)の催事販売については、販売の期間・場所や折込みちらしの枚数は、同店での前々回(平成四年四月二日から同月七日まで・売上高二九〇万七〇〇〇円)、前回(同年五月二八日から同年六月二日まで・売上高二九六万四〇〇〇円)の催事販売の場合と同じであること、催事販売の売上高の多い時期は一月、五月、八月であることが認められ、これらのことからすると、前記(二)の催事販売の売上高(二五六万六〇〇〇円)の減少も予定どおりハンドちらしが配布されなかったことによるものと推認される。

なお、原告は、本人尋問において、従来からアルバイトの者が来なかったことが多かったと供述しており、(書証略)(原告作成の陳述書)にもこれに副う記載があるが、証拠(略)に照らすと、原告の右供述及び(書証略)の右記載は措信することができない。

4  信州ジャスコほていや上田店の件について、原告は、平台の商品の残りが少なくなって見栄えが悪くなっていたので、他の台に移したにすぎないと主張している。

しかし、同店と被告会社との契約では、被告会社の専用什器二〇台と同店から提供を受ける平台五台で売場を設営することとされ、最終日の搬出は店と相談の上午後五時ころから開始するものとされていたことは前記認定のとおりである。そして、証拠(略)によると、販売期間中に商品の補充が必要となった場合、不足分を追加発注すべきものとされていることが認められる。そうすると、仮に原告主張のとおり商品が少なくなったものとしても、原告が自己の判断で勝手に午前中に陳列台を片付けることは許されないことといわなければならない。

もっとも、原告は、本人尋問において、最終日の前日に発注した場合、翌日の最終日に商品が届かないと不都合が生じる旨を供述しているが、被告代表者尋問の結果によると、販売員が発注した商品はほとんどの場合翌日には配達されていることが認められるし、仮に配達されない事態が生じたとしても、その場合は被告会社に連絡して指示を仰げば済むことである。

5  西友志村坂上店の件について、原告は、販売員証はジャンパーの下につけていた旨を主張している。しかし、仮にそうだとしても、見えないところに販売員証をつけても無意味なわけであるから、そのことが正当化されるわけではない。また、原告は、カセットテープを流さなかったのはテープが壊れていたからであると主張しているが、仮にそうであったとしても、被告会社にその旨連絡して指示を仰ぐなどしかるべき措置をとるべきである。しかるに、原告は、これをしないばかりか、カセットレコーダーでラジオを聴いていたのであるから、正当な理由があるとはいえない。さらに、原告は、腰を下ろして電気ストーブに当たっていたことについても、厳寒期であるから責められるべきでないと主張しているが、同店の責任者と相談した上で暖房のため相当な方法をとるのであれば格別、自己の判断でしかも右のような態度で販売に臨むことは許されないというべきである。

6  原告は、本件解雇が他の懲戒処分を経ずになされた点で解雇権の濫用に当たると主張している。

しかし、証拠(略)によると、催事はスーパー等の店舗の催しとして行われ、被告会社の名前が表面に出ることはないこと、被告会社は独立の店舗を持たず、スーパーなどの売場を借りて販売員を派遣して販売する形態をとっていること、したがって、販売員の販売態度等がスーパーなどの契約内容に副わない場合などには直ちに取引を停止されるおそれがあり、取引先との契約書においてもそのような場合契約を解除し得る旨が明記されていること、以上の事実が認められる。これらのことや、被告会社が原告に対して二度にわたり注意したにもかかわらず、西友志村坂上店で前記行為に及んだことなどにかんがみると、本件解雇が解雇権の濫用ということもできない。

7  そして、証拠上、被告会社が即時解雇に固執したとの事情も見当たらないので、本件解雇は、その意思表示のときから三〇日後の平成五年四月四日の経過をもってその効力が生じたものというべきである。

また、被告会社が支払った解雇予告手当三一万円は、当事者の合理的な意思解釈としては、解雇の効力が直ちに発生しない場合には未払賃金に充当する意思であると解されるところ、右解雇予告手当の額が平成五年三月二七日から同年四月四日までの間の賃金額を超えていることは明らかであるから、その間の賃金は支払済みであるということができ、結局、被告会社が原告に対して未払賃金として支払うべきものはない。

二  争点2(不法行為の成否)について

先に説示したところによれば、本件解雇は適法であるから、本件解雇及び被告会社の原告に対する就労拒否について不法行為は成立しないといわなければならない。

三  まとめ

以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判官 小佐田潔)

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